株式会社
カクヤスグループ
社長インタビュー

100年企業「カクヤス」の始まりは
一軒の酒屋でした

カクヤスグループ会長(3代目社⻑)・
佐藤順一インタビュー

2021年カクヤスグループは創業100周年を迎えました。これはお客様、取引先様のご愛顧があってこそのこと。同時に我々も皆様にお喜びいただけるよう、日々工夫を重ね、進化を続けてきました。そこでこのページでは、当社代表・佐藤順一に、山あり谷ありだった当社の歴史や、知られざる成長の秘話を語ってもらいました。

カクヤスの由来は「格安」じゃなかった!?

――カクヤスの名前の由来からお聞かせ下さい。

佐藤

よく「格安」だと思われますが由来は別なんです。1921年の創業当時、お酒は四角い枡で量り売りをしていました。そこでこの形から「角」の文字をとり、初代の安蔵さんが自分の名の「安」をあわせたんです。

本社第二ビル1階にあるロゴ。1990年からこの場所でカクヤスの成⻑を見守りつづけています。

――「なんでも酒や」のほうは?

こちらには強いこだわりがあります。よく“なんでも持ってきてくれるんですか?”と聞かれますが、違うんです。

 

私が1993年に社長になった数年後、酒類販売免許の規制緩和が決まり、大手スーパー等もお酒を販売できることになりました。これは既存の酒屋にとって、今後、強力な相手との戦いになること、安売り路線にも限界が訪れることを意味していました。

 

そこで私は、酒屋の特徴である「お届け」に磨きをかけるしか生き残る道はない、と考えたんです。これは社の大改革を必要としました。それまでは低価格戦略だったので、例えばたまに商品が欠品しても「効率を追求した結果です」と言えました。しかしここからはお客様に「便利だね」「丁寧だね」と喜んでいただく付加価値戦略をゆくことになります。何がお客様に喜ばれるか社員全員で考える必要があったんです。

 

そこで最初に、企業姿勢の象徴ともなる店名を、お客さんのご期待になんでも応える「なんでも酒や」としました。たまに「何でも持ってきてくれるの?」と言われますが、これは「お客様のご要望に『なんでも』応えたい」「今は全てのご要望に応えられていなくても、いつかは応えたい」という姿勢を表したものなんです。

――ピンクのロゴにはどんなこだわりが?

当時はバブル全盛、人手が足らず社員が疲弊しており、私は常々「明るい会社にしたい」と思っていました。そんな折、配達に使う車を買うことになったので、自動車販売店の方に「今までの白や紺色じゃなくて、もっと明るい色はないですか?」と聞いてみたんです。その時、軽い気持ちで「例えばピンクとか」と言いました。すると――しばらく経ったら本当にピンクの車が来たんです。「やってしまった」と思いましたね(笑)。当初、配達スタッフの多くは「こんなのイヤだ」と言っていました。

 

しかしお客様が「可愛い」「目立つ」と仰って下さると、皆、何となく「そんなもんかな?」と乗り始め、これに合わせ、お店の看板、コーポレートカラーをピンクにしていったんです。

業務用のルート配送はの2tトラック。家庭用の配送は主にの軽バンやリヤカーで行っています。

結果的にこの目立つ明るい色にしたのは大正解でした。アニメ「サザエさん」に三河屋さんという酒屋さんが登場しますが、ある時から彼はピンクのバイクに乗って登場するようになったんです。私の冗談が元になったのかな? と嬉しく思いましたね。

「1本からピンポーン」誕生秘話

――今のカクヤスに至る大きな転機は?

東京23区内無料配送を始めたことですね。当時、大手スーパーやディスカウントショップで配達も行っているお店はほぼなく、東京の一部とは言わず23区全体で、頼めば当日にでも持ってきてくれる配送網を築けば差別化できる、と考えたんです。

配達に使うリヤカー付自転車。東京23区の他、神奈川、埼玉、大阪の一部でも即日配送可能で、さらなるエリア拡大も進めています。

――途中「もうダメだ」と思ったことは?

そんなことの連続でした。なにしろお店を増やすほど大赤字なんです。それまでは出店すれば半年~1年で黒字になりました。しかしこれは、価格で勝負していたからお客様が他店と比較しやすかったからなんです。配達の場合は、一度試してもらうまで「これ便利じゃん」とならず、店はなかなか黒字になりませんでした。

このピンチを脱出できたのは……社員の何気ない一言がきっかけでした。「カクヤスの隣に飲食店があるんですが、そこには届けないんですか?」と言うんです。確かに、理にかなっています。当時、業務用は前日のうちに発注しておくのが常識。しかし当日配送なら急に大人数の予約が入っても対応できますし「今日は雨だから仕入れは少なめに」といった機敏な判断もできます。

――ニーズが後から見つかったんですね?

はい。当初は想定していなかったんですが、居酒屋やバーなどへ営業に行くと、使っていただけないお店はないほど喜ばれました。そんななか、次の進化もありました。ある高級店のオーナーさんと話した時「店に数百万円分も在庫があって盗難も心配」と嘆いておられたんです。これをヒントに銀座など一部地域で、お店が高級酒の注文を受けたら10分以内に徒歩でお届けする体勢を築くと、こちらも大好評をいただけました。

銀座8丁目にある「カクヤスclassワインセラー銀座」。担当の社員は皆ワインの資格保有者で、電話越しでお好みに合った商品を提案します。

これら飲食店さん向けのサービスが当たらなければ、一時期の赤字を耐えられたかどうか……。振り向けば、歩んできた道のりは非常に細く、カクヤスが生き残るにはあの展開以外なかったのかな、と感じます。

――そんな経緯で、今の「お届け」のモデルに進化していったんですね。

はい。お客様にとって一番「便利!」と感じていただける配達を目指すべく、3つの縛り――エリアの縛り、お届けまでにかかる時間の縛り、お届けする量の縛りをお客様目線でなくしていきました。

 

進化の中では、配達料を無料にしたことも大きかったと思います。実は途中まで「時給1000円のアルバイトさんが1時間に3件まわれる」と考え、1回300円の配送料をいただいていたんです。しかし「酒屋が送料をとるのか」と不評で、私も「確かにそうだな」と思っていました。またお店で売る時も、商品を並べ、レジを打つ人の人件費は必要ですよね。そこで「配達するといくら上乗せすべきか」と綿密な計算をしてみたんです。すると――何と、お店で売っても、配達しても、必要な人件費は同じだったんです。自転車に大きなリアカーをつけ、いちいちお店に戻らず配送することにより、1時間あたり4件程まわれました。しかも配達のお客様は当時で平均1万円以上、今でも平均5000円以上ご購入下さるなど、単価が非常に高かったんです。ならば無料にできるな、と思い、このモデルを広めていきました。

――1本からにしたのはなぜですか?

わかりやすくていいじゃないですか。もちろん1本だけお届けしていたら赤字ですが、トータルで黒字が出ればいいんです。実はある地域に、よく1本だけご注文をいただくお婆ちゃんがいます。当然、赤字です。でも彼女はきっと、カクヤスの配達員と話すのが楽しみなんです。触れ合いを大切にする酒屋の心は忘れちゃいけません。だから「1本から」なんです。

次の100年も明るく楽しく!

――その後、年中無休へと進化していますが、その経緯は?

飲食店さん向けのサービスが本格化すれば、年中無休にするのが当然の流れです。しかし、社長が「やるぞ!」と押しつけて、すぐ「はい!」となるほど、組織の運営は簡単なものじゃありません。そこで、現場に判断してもらったんです。「飲食店さんは土日もやってるけど、カクヤスは週末、休みだよね。これどうしたらいい?」と話し、議論をしてもらいました。すると自然と「人のやりくりは大変だけど、何とか365日やらなきゃいけない」という結論が出たんです。

 

人を動かす時は、相手の視野を自分と同じにし、考えてもらうのがよいと思っています。同じものを見た時に出てくる結論はだいたい同じです。一方、上から指示を出すと、言われたほうは嫌々やるし、何かで行き詰まった時に「言わんこっちゃない、どうしますか?」と再び指示を待ち、自分で事態を切り拓こうとしなくなります。当時の社員は、この変化によくついてきてくれたと感謝もしています。

――ほかに、組織を動かす時に心がけていることは?

何でも言い合える雰囲気をつくることです。当社は今、東京の平和島に7000坪の物流基地を持っていますが、この計画を進める時、私、担当者に「素人は黙っていて下さい」と言われましたよ(笑)。

 

――えぇ……。経緯は?

メーカーさんが工場から当社に直接持ってきてくれれば、運送費が下がり、お客様に安くお届けできます。海外の洋酒も、コンテナごと仕入れれば安くなるんです。でも巨大な流通センターが必要になりますよね。

 

そこで東京・平和島にある倉庫の一部を借りることにしたんですが、敷地の中に通路があり、どこを借りるかが難しかったんです。この時、私が口を出したら、役員が反論してきたんですね。その時は私も「素人はお互い様じゃん!」と言いましたが、振り返れば、言いたいことを言った役員は立派です。現場のことは、現場の人間が一番詳しいはず。相手が社長であれ、自分が正しいと思うことは言うべきです。ちなみに、どっちが正しかったか結論は出ていません。すぐ流通量が増え、結局、フロアごと借りちゃったんです。きっと、両方素人だったんでしょう(笑)。

――今後の事業の見通しを教えて下さい。

我々はこんな経緯を経て、東京23区内に商品を1時間枠でお届けできる「プラットフォーマー」になりました。まずは、これに磨きをかけていきたいですね。お客様から直接、「こうなったらもっと便利だよね」といったご要望を伺うために、今後も自社物流にこだわりたい。そして、玄関先でお客様に喜んでもらえる企業でありたいと思っています。ここを磨けば、今、埼玉、神奈川、大阪の一部地域に広がった配送網を全国展開できますし、お酒以外の商品も配達できます。次は、物流だけでなく商流のプラットフォーマーとして「ネット専門店街」になれたらいいですね。例えば、最近はペットフードの配達を始めています。お酒の配達が集中する夕方から夜の時間帯を避けて配達できるから、今持っているリソースを活かせるんです。カクヤスらしい工夫だと思います。

――次の100年後、カクヤスがどんな企業になっていたらうれしいですか?

明るい会社であってほしいと思っています。ビジネスは様々な失敗と思いもよらぬ成功の連続で、ビジョンは描いてもそのままには実現しないもの。だからこそ「じゃあこれをやってみよう!」と思える明るさが大切なんです。そんな「カクヤスらしさ」を持った会社であれば、今後も皆様に愛され、次の100年を迎えられる会社になれるのかな、と思いますね!

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